APNEA WORKS by Ryuzo SHINOMIYA






藤本トレーナーのコメント



図には篠宮君のスタティック中の心拍数変化と1991年の論文で紹介されているエンツォ、パトリシア、ロザーナ・マイオルカのデータを一緒に示しています。横軸は時間、縦軸は心拍数を示しており、横軸の下にはそれぞれのプロットのプロフィールが示されています。図中の↓は横隔膜が最初に収縮したポイントを示しています。


 篠宮君の心拍数推移の特徴として、呼吸停止直後と呼吸停止後3〜4分にかけて、心拍数が急激に低下する相が認められることが挙げられると思います。このような心拍数の推移は、これまでパブリッシュされている学術論文では僕の知る限り存在せず、ある意味世界初の報告ではないかと思います。呼吸停止直後から心拍数の低下が認められることは、ご存知のように、これまで広く観察されており、そのメカニズムについてもよく知られています。


しかしながら、呼吸停止後3〜4分にかけて見られる急激な心拍数低下のメカニズムについては考察が難しいです。いくつかメカニズムが考えられる中で、心拍数低下が主に迷走神経の興奮によるものであることを1例として考えると、なんらかの形でさらに迷走神経を興奮させる刺激が発せられた可能性が考えられます。呼吸停止終盤では肺胞における二酸化炭素の交換が行われなくなり、消費した酸素の分だけ肺の容積が低下します。肺の容積が低下する事自体が心拍数の低下を招く(ヘーリング=ブロイエル反射)ので、このような要因が心拍数低下に関与したことが考えられますが、これもどれくらい効いているかについては定かではありません。以上のように考えると、5分前後息こらえが出来る人も、当然、呼吸停止終盤には肺の容積が低下するので、このような刺激を心拍数低下に結びつけることができることが予想されますが、実際はそうではなく、篠宮君が2回目の急激な心拍数低下を見せた頃、逆に心拍数は徐々に上昇しはじめます。もしかしたらこのような事が、スタティックで7分近い記録を出す鍵となっているのかもしれません。


篠宮君は、2回目の急激な心拍数の低下時は水深45m以下の感覚に似ており、ブラッドシフトが亢進したような感があると表現しています。今後はスタティック中の体の各所の血流量や酸素飽和度の測定を行うことで、このような感覚の謎を解明してゆき、トレーニングの指針として利用してゆければと思っています。カナダのサイモン・フレーザー大学では、フリーダイビングスタディが1年ほど前から行われており、スタティック中の脳血流量を測定して、興味深いデータを得ているらしいので、これが発表されると、また面白いのではないかなと思います。


最後に余談めいたものなのですが、篠宮君の強みは「自ら選手、自らコーチ」という姿勢を崩さないところにあると思います。僕は篠宮君が立てたトレーニング計画にアドバイスを送るだけで、基本的には篠宮君は自分で勉強して、自分でメニューを立てています。アスリートとしてこのように自立することは、競技を行う上でもっとも大事なことではないでしょうか。自分に一番あった練習メニューは、やはり自分が一番よく解っていると思います。まずこれまでの先行研究をよく吟味しつつ、そうかと言って、先行研究にとらわれる事無く、あくまで参考としながら競技を行っていくことができれば、僕は理想的な競技者になれると思います。科学は複雑な自然界の分かりやすい所だけを切り取って、体裁よくまとめたものにすぎないので、何千、何億分の1というトップアスリートには当てはまらないことも多いのです。科学か?自分の感覚か?どちらか??ではなく、どちらもバランスよくというのが理想的ですね。




スタティック日本記録 アテンプト時における心拍数推移